コロナ逡巡日記④ (3月16日~3月22日):不要な外出禁止となる

(本稿は、コロナ逡巡日記③の続きです)

3月16日(月)

 16日(月)15時現在,新たにオーストリア国内で156名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び2名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は1,016名)。

(中略)

 16日,オーストリア航空(Austrian Airlines)は,同社が運行している定期便を18日夜から28日までの間すべて停止する旨発表しました。最後の便は19日8:20(当地時間)当地到着予定のシカゴ・ウィーン便(OS66)となる見通しです。また,当地格安航空会社のラウダ・モーション(Lauda Motion)も同様に本16日24:00(当地時間)から4月8日まで全面的に運航を停止する旨発表しました。

 16日,墺連邦鉄道(OeBB)は政府による交通の削減要請を受け,当面の国内列車の運行につき以下のとおり発表しました。なお,国際列車についてはイタリア,スロベニア,スイス,スロバキア,チェコ行きの列車がすでに運行を停止しています。

(西部路線)
・ウィーン・ザルツブルク間のレールジェット・エクスプレス(RJX)は従来通り1時間間隔で運行。
・ウィーン・ザルツブルク間のレールジェット(RJ)は18日より1時間間隔から2時間間隔運行へ短縮。
・ウィーン・リンツ間の臨時列車は17日から全面運休。

(南部路線)
・ウィーン・グラーツ間のレールジェット(RJ)は従来通り1時間間隔で運行。
・グラーツ・シュピールフェルト(スロベニア国境)間の長距離列車(FV)は17日より全面運休。
・グラーツ・フィラッハ間の臨時列車は本16日より全面運休。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月16日」

 いよいよリモートワークがはじまる。

 わが職場からは「家族の安全と健康を最優先にせよ。仕事は遅れても構わない」とのありがたい指示。コロナの影響で忙殺をきわめる部署とそうでない部署があるけれど、私のセクションはどちらかといえば後者に属するのだ。

 明日からレストランが全面休業となるので、いま貴重な外食をしておきたい。奥さんと相談して、Yakiniku Gankoに行こう、と意見の一致をみる(奥さんと私の意見がぴたりと一致するのはめずらしいことである)。

 来店前に確認の電話をかけてみると、「今日は定休日。そして明日からは政府要請による休業期間」との残念な回答であった。でも、もっと残念なのは営業かなわぬ当の飲食店だろう。再開の暁には売り上げに貢献したい。




 あてもなく外に出る。ほとんどの店がすでに休業している。この閑散ぶりは、シーズンオフの次元を超えている。




 マクドナルドですら閉店している。飢えた顔つきのおじさんが私に近づいてきて、「ここも休みか?」と尋ねてきた。「そうだ」と答えると、「Oh mein Gott...!」とおじさんは嘆く。 かつてこんなにも休業が惜しまれたマクドナルドがあっただろうか。おお、私の神よ。




 あちこち巡ったあげく、高級ベーカリーのJoseph Brotに行く。近所でオープンしている飲食店は、ここがほとんど唯一だった。エッグベネディクトは弾けるようなおいしさだったが、お値段もなかなか弾けていた。




3月17日(火)

 17日(火)15時現在,新たにオーストリア国内で316名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例が報告されました(累計確定症例数は1,332名)。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月17日」

 オーストリア政府は、「5名以上の集まりの禁止。ただしコロナ対策の活動は例外」としている。ならば、ジャスト4名が参加する「コロナ対策麻雀大会」はどうだろう。白なのか、黒なのか。これは屁理屈ではなく、法律を詰める仕事の発想だ。

 「麻雀大会」が「コロナ対策」にどう資するのか、このあたりの論理の脆弱性を突かれるかもしれない。快癒を願う祈祷としての麻雀大会? さすがに無理か。「567」の順子が「コロナ」につながる? ドイツ語圏でどうやって説明するのか。

 結論としては、ちゃんと自粛しよう、ということだ。


3月18日(水)

 18日(水)15時現在,新たにオーストリア国内で314名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び4名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は1,646名)。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月18日」

 新型コロナウィルスの経済対策として、クルツ首相が380億ユーロの企業支援策を発表する(※)。これはオーストリアのGDP(2019年)の9.5%に相当する規模の政策だ。

 具体策はこれから詰めるとしても、このスピード感こそがリーダーシップだろう。政府発表というものは、遅らせる理由を考えるほうがずっと簡単であるからだ。

Austria’s government will provide another 9 billion euros in guarantees and warranties, 15 billion euros in emergency aid and 10 billion euros in tax deferrals in addition to an already announced 4 billion euro aid package, the chancellor said.

“With the clear goal, no matter what it takes, we try to support the people in our country,” Kurz told a news conference.

“My political conviction is that the state must be frugal with tax money in good times so that there are opportunities to help in bad times. That time is now,” Kurz said.


※ 約1週間後にその具体策が発表された。(参考:JETROビジネス短信「380億ユーロ規模の企業救済措置を発表(オーストリア)」

コロナ対策を発表するクルツ首相 (Source: VIENNA.AT (2020, March 18). In short: the coronavirus crisis will "last a very, very long time". © AP Photo / Ronald Zak)


3月19日(木)

 19日(木)14時半現在,新たにオーストリア国内で367名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例が報告されました(累計確定症例数は2,013名)。

(中略)

 18日夜の墺内務省の発表によると,墺は19日0時より4月7日まで対ドイツ国境において,既に対イタリア,対スイス,対リヒテンシュタイン国境で実施している国境管理措置を実施します。

 また,19日に公表された墺保健省の政令によれば,同措置は対ハンガリー,対スロベニア国境においても20日0時より適用されます。これにより,墺により同様の国境管理を実施していないのは,対チェコ及び対スロバキア国境のみとなる見込みです。

 同措置では,墺へ入国する者は4日以内に発行された,新型コロナウイルスに感染していないことを証明する医師の診断書を提示しなければなりません。ただし,墺国籍所有者及び在留権を所有する外国人は,入国後14日間の自主的な自宅隔離に承諾する書類に署名すれば入国を許されます。また,墺を通過し,どこかに立ち寄ることなく出国する者及び国境を越えて自宅と職場を行き来する通勤者も例外扱いとなります。なお,国境通過に際しては健康チェックが実施されます。

 18日,墺保健省はシェンゲン域外からの空路での墺への入国を規制する政令を発出しました。20日0時に発効し,4月10日まで適用されます。同政令の概要は以下のとおりです。

(1)墺国籍所有者及び在留権またはDビザを所有する外国人は入国後,14日間の自主的な自宅隔離に承諾する書類に署名することを義務付けられる。

(2)(1)に該当しないEU等域外民(第3国国籍者)のシェンゲン域外からの空路での入国は拒否される。ただし,外交団,国際機関職員とその家族,人道支援・介護・保健に携わる者,トランジットの乗客,貨物輸送人員は除く。

(3)(1)及び(2)に該当しないその他の外国人は,4日以内に発行された,新型コロナウイルスに感染していないことを証明する医師の診断書を提示すれば入国できる。提示できない場合,即座に帰国することが手配されない限り,専門の宿泊施設に14日間隔離される。隔離期間中はこの施設を出ることは許されない。

(4)乗組員にはこの政令は適用しない。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月19日」

 ウィーン郊外に家を借りる。Airbnbの相場が暴落して、1泊3千円弱で庭つき一軒家に泊まれたのだ。コロナ対策のために清掃業者が来なかったので、さらに料金を値引きしてもらう。

 地下鉄とバスを乗り継いで、見知らぬスーパーで食材を買う。すこし道に迷うが、6歳児に助けられる(彼は両親よりも方向感覚に優れている)。これもまたひとつの旅である。





3月20日(金)

 20日(金)15時現在,新たにオーストリア国内で375名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例が報告されました(累計確定症例数は2,388名)。

(中略)

 20日(金),クルツ首相は記者会見を開き,現在実施されている外出規制措置を4月13日まで延長する旨を発表しました。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月20日」

 昨日の朝にオンライン定例会議があったことを忘れていた。チャットで上司に指摘され(どうしてSatoruは不在だったのか)、チャットで謝る(すみません、忘れてました)。

 リモートワークでも仕事はそれなりにある。インドネシアスリランカサウジアラビア南アフリカフランスロシアなどのカウンターパートと、それぞれのやり取りを進める。

 ひとつ困っているのは、西アフリカ某国の出張案件である。私としては日程を延期すべきと考えているのだが、本件の関係者がそれに与さず、「コロナウィルス? エボラ出血熱テロリストに比べれば問題ないわ」とやる気に満ちているのだ。

 なにしろ日本国外務省の「海外安全ホームページ:危険情報」でほぼ全域がレベル4(退避勧告)となっている国だから、気合の入りかたが違うのだ。「平和ボケ」ならぬ「危険ボケ」というか、まあじつに困ったものである。




3月21日(土)

 21日(土)15時現在,新たにオーストリア国内で426名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び2名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は2,814名)。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月21日」

 土曜日になるが、しじゅう家にいるものだから週末の興奮が薄い。不自然なポイントで水を足されたような薄さである。

 「こんな調子で日々が続いていくのか…」と、事態の難しさを改めて知る。正直なところ、西アフリカ旅行よりも自宅勤務の日々のほうが大変である。(大変さの質が異なるので安易には比べられないが、この不如意が延々と降り積もってくるような苦しさは、リモートワークに軍配があがるような気がする)





 そうしたなかで、劉慈欣「三体」を読み終える。厚めの作品だったが、あまりのおもしろさに3日で読了してしまった。

 冒頭の文化大革命のシーンから、ぐっと惹きこまれた(このトピックを中国本土の出版物で扱えるとは…!)。これだけでも読みごたえがあるのだが、そこから現代パートに転じての、「さあ、お前はどこまで振り落とされずについてこれるかな?」と試されているかのような、めくるめく怒涛の展開も最高だった。

 VRゲームで繰り返される文明の崩壊。ナノテク技術を駆使した軍事行動。量子論から紡がれる「嘘」の極北みたいなテクノロジー。見た目はハードなSFだけど本質はエンターテイメントで、どこまでもイマジナティブな物語に全身を打たれるような快楽があった。こういう作品のテーマ性を語るのは野暮なのだろうけれど、行間から「基礎科学を大切にしよう」と語りかけてくる作者の姿を、私は何度もイメージした。

 本当にいいものを読ませてもらった。


3月22日(日)

 22日(日)15時現在,新たにオーストリア国内で430名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び8名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は3,244名)。

(中略)

 21日夜,フォアアールベルク州は,同州ネンツィング(Nenzing)の2つの地区(Nenzing-Dorf及びBeschling)を,新型コロナウイルスの感染拡大が確認されたため4月3日まで隔離する旨発表しました。同地区の出入りは原則として禁止されます。

 同州発表によれば,同地区の中学校での感染者及びチロル州のスキー地域を訪れた者により感染が広まり,発表時点でネンツィングにおいて計22名の感染者が確認されていたとのことです。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:3月22日」

 日本国外務省の「たびレジ」に登録すると、現地の情報が逐次送信されてくる。

 このとき私はキプロストルコを登録していたのだが(なぜなら近日中に旅行をする計画を立てていたから)、ここにきて暗雲の濃度が高まりをみせてきた。

 報道によれば、トルコ航空は「3月27日までに、ニューヨーク、ワシントン、エチオピア、香港、モスクワ以外のフライトを停止する」旨発表しました。

引用:在トルコ日本大使館「新型コロナウイルス関連情報:本邦直行便(トルコ航空)停止の情報(第14報:3月22日14時現在)」

 これはもう、「行くべきか行かざるべきか」ではなく、「どうやって返金交渉を成功させるか」に、ゲームのフェーズが移行したということだ。うっすらと予感されていたことが、ついに確信に転じたのであった。

 キプロス行きはWizz Airを、トルコ行きはトルコ航空(Turkish Airlines)の航空券を、それぞれ購入していた。

 どちらの返金交渉にもそれなりに勝算はあった。なぜならSkyscannerなどで出てくる旅行代理店ではなく、航空会社のサイトから正規に予約していたからだ。旅行好きの人に対しては釈迦に説法ではあるけれど、代理店を挟むと見積もりは若干安くなるのだがーー悪質な会社だと怪しげな手数料をあとから加算されて結局割高になったりするけれどーー返金手続きが面倒になることが多いのだ。

 とはいえ100%の勝利は見えてはいない。心躍る要素の少ないToDoリストに、私はこれから立ち向かわなければならない。

 しかしまずは眠りにつこう。明日の自分にバトンを渡そう。心躍る要素の少ないToDoリストを抱えたままに、私の日曜日が終わりを告げる。




コロナ逡巡日記⑤に続く)


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