格安航空会社Wizz Airについて、まだまだ語るべきことがある

ハンガリーの格安航空会社Wizz Airが、我々の前に登場する。

 Wizz Airについて語るときに私の語ることは、どこまでも無辺際で果てしがない。

 デイリーポータルZにて、本題(オーロラ)よりも余談(Wizz Air)が2倍くらい長い記事を書いた。1年前から準備していたネタが、ようやく形になった。疲労困憊と安堵感の心地よいミックスが、私をゆっくりと満たしていく。

 やがて私は、まだ力を余していることを自覚する。温度の残った沈黙のなかで、Wizz Airが私の背中を擦っている。そうして私に囁きかける。「もっと書けるだろう?」と囁きかける。「お前の力は、こんなものではないはずだ」


Wizz AIr
「もっと書けるだろう?」

「お前の力は、こんなものではないはずだ」


 さあ語ろうじゃないか、格安航空会社Wizz Airについて。いま私が知るすべてのことを。


Tip① 機内の飲み物を準備しておく

格安航空会社の多くがそうであるように、Wizz Airもまた顧客の気のゆるみを狙っていくスタイルだ。搭乗中に、あるいはその前後に、虎視眈々と追加料金をせしめる機会を窺っている。

 予約時の留意点については、デイリーポータルZの記事ですでに触れた。だが、もうひとつ注意を払うべきは、




機内の飲み物がめちゃくちゃ高額なことである。

 お水をひとつ買うだけで、6.5ユーロ(800円)もする。「ペットボトルのごみを増やさないための配慮かしら。SDGに乾杯。さすがはWizz Air。みんなハッピー。みんな最高」といった性善説に立てれば幸せな気もするが、まあ高すぎる。これはさすがにひどいと思う。

 それでも欲望に(あるいは「喉の渇き」という生理現象に)負けて、これらを注文する乗客も三々五々ある。Wizz Airの経営が黒字になるゆえんだろう。

 とはいえ、吝嗇が服を着て歩いているような私は、なんとなく財布のヒモを緩めたくない。手荷物検査を通過したあとの給水所の有無は、だから私にはクリティカルな確認事項である。ヨーロッパは「マイボトル運動」がさかんなので、空港にも給水所がしばしばあるのだ。

 手荷物検査で液体物は持ち込めない(=廃棄させられる)ケースが通常だが、幼児用の水筒に対してはわりに寛容である。もちろんチェックはするのだけれど、無害な液体物とわかればそのまま通過させてくれるのだ。子どもに優しいヨーロッパ文化に甘えるようで心苦しいが、これで水分を確保できるのだからありがたい。(※ ダメなときもあります)

 給水所もなくて、水筒もダメだった場合にはどうするか。その場合には、おとなしく売店でお水を買うとよい、というのが私の考えだ。「空港価格」の飲み物も「Wizz Air機内価格」に比べればマシである。そうやって自分を説得させるのだ。




Tip② 荷物が多いときは”Wizz Priority”に頼る

Wizz Airの手荷物制限をいかにして突破するか。

 このテーマについては、以前に記事を書いたことがある。
(⇒ 1週間の旅行グッズは「40x30x20cm」に詰め込める

 紙おむつなどをコートの内側に仕込んだり(さながら拳銃を隠し持つハードボイルド小説の主人公のように)、衣服を何枚も重ね着したりする。そうした涙ぐましい努力のかいもなく、どうしても「40x30x20cm」に収まらないときもあるだろう。とくに子連れの旅行者は。


厳しい制約


 そういうときは、早めに降参をしてしまおう。具体的には、約2~3千円を事前に払い、「55×40×23cm」の荷物の持ち込みが許されるWizz Priorityのオプションを付与しておこう。これをしないで制限オーバーが発覚すると、もっときつめの罰金が待っているからだ。

 意思決定の引き延ばしが、経済的ダメージにすぐにつながる。LCC全般の特徴である。





 理想をいえば、予約するタイミングで何名分のWizz Priorityを買うべきかを決めておくのがよいだろう。家族4名での旅行だとしたら、代表者の1人だけにオプションを付与するという手もある。

 また、Wizz Priorityには他のお客さんよりも先に乗れる権利も付随する。機内の荷物入れがコンパクトなWizz Airにおいて、優先搭乗には実利的なメリットがたしかにあるのだ。

頭上の荷物入れスペースはすぐに埋まる

グダニスク~トロムソ旅行では、私(Satoru)1名がWizz Priorityを購入した


Tip③ Wizz会員になるのも悪くない

Wizz Airはどのアライアンスにも加盟していないし、独自のマイレージ制度も存在しない。(2020年2月現在)

 そのかわり、Wizz Air愛好家に向けた会員制度というものがある。具体的な特典は、


このような按配である。

 Standard Membershipなら、年会費39.9ユーロで「同行者1名を含め10ユーロ割引」の特典を享受できる。二人旅で一往復すれば、それで一応のモトが取れるわけだ。

 家族で旅行することの多い私は、Group Membershipに加入している。こちらは年会費79.9ユーロで「同行者5名まで10ユーロ割引」。4人家族で一往復すればペイする計算だ。

 私は一昨年から会員になっているが、率直なところ「10ユーロ割引」以外の特典を実感したことはない。そういうわけで、会員に入るか迷われている方がいらっしゃるなら、シンプルに電卓をはじいて損得計算するのがよいだろう。




Tip④ チケットは画像で保存するとよい

これはWizz Airに限った話ではなく、他のLCCや鉄道でも同じことだが、紙に印刷するとコストが余計にかかるのでーーこれは手数料を節約するという一義的な意味に加えて、「紙媒体だとすぐに失くしてしまう」という私の欠陥的性格に依る文脈でもあるーーiPadやスマホのスクリーンショットで保存をしておくのがスマートだ。

 ペーパーレスの進んだ社会において、チケットとは「QRコードを読み取る対象物」と概ね同義である。そしてランダム席にしたならば、搭乗2日前にならないとチェックインできないことには注意が必要だ。

 なんとも不便ではあるのだが、しかしそのためにスクショ画像の保存日も新しくなるので、かえって履歴から見つけやすい。このあたり、たぶんどの設計者も企図していなかった「不便が生んだ予期せぬ便利」みたいな状況になっている。Unexpected Convenience Created by Inconvenience(UCCI)というのは、いま勝手に私がつくった言葉です。

 さらに細かいTipsとして、画像保存に関する留意点をいくつか列挙したい。

(1)スマホ等の「自動回転」機能をオフにしておく。
 改札などにかざすとき、くるくる画面が回転するのを防ぐため。

(2)画面の明るさ(輝度)は最大にしておく。
 これも読み取りやすくするための小さな工夫。

(3)シェンゲン圏外では紙媒体を求められるかもしれない。
 中東やアフリカなどでは、紙を見せないと認められないケースが稀にある。心配なときは、画像やPDFを印刷して「お守り」のように懐に忍ばせておくのも一案である。
 

子どもがつくったWizz Airの非常口の説明プリント(?)

Tip⑤ 搭乗時刻と遅延リスクには相関がある

Wizz Airの朝は、早い。

 ウィーン発のフライトは、早朝5-6時台だって珍しくない。こうなると始発の電車でも間に合わないので、市内から空港まで運んでくれる深夜バス(約10ユーロ)に頼るのがよい。それすら節約したいなら、終電で空港に到着し、ターミナルの冷たい床を臀部に感じつつ半睡半醒の夜を明かすしかない。私はイスラエル旅行のときにそのようにした。そうして少しく後悔をした。(家族旅行のときは必ず深夜バスにしています)

 朝イチの飛行機は体力的に厳しいときもあるが、そのぶん遅延リスクの少なさも予想される。というのは、機体あたり利益の最大化を目指すWizz Airでは、1日かけて

ウィーン ⇒ オフリド
オフリド ⇒ ウィーン
ウィーン ⇒ ニース
ニース ⇒ ブダペスト
ブダペスト ⇒ バクー

といった順番に各都市を回る運航スケジュールを組むことが通常であるからだ(註:この例示自体は架空のもの)。

 こうした状況においては、朝イチのフライトでの到着の遅れが、次の/次の次の/そのまた次のフライトの出発遅れに累積されていく可能性がある。もっともこれはWizz Airに限った話ではなく、空路で複数の乗り継ぎをするときは「朝よりも夜のフライトのほうが遅れるリスクが若干高い」ことを勘定に入れておくとベターかもしれない(※)。

 平凡な結論ではあるけれど、早起きにはやはり効用があるのだ。

※ リーダーズ・ダイジェストの記事 "If You Want to Avoid Delays, This Is the Best Time of the Day to Fly" によると、「午前6~7時のフライトが最も定刻どおりで、逆に午後6~7時が最も遅延リスクが高い」らしい。これは米国運輸省の統計をもとにした分析だが、ヨーロッパでもさほど変わらないように推察される。


Wizz Airの遅延率は最近すこし高まっている
(出所:Wizz Air Holdings "Plc Annual report and accounts 2019" p.18)


Tip⑥ 価格変動のトレンドを理解しておく

Wizz Airの運賃の底値は9.99ユーロだが、いつもその値段で買えるわけではない。搭乗の前日などに買おうとすると、100ユーロくらいすることもしばしばある(それでも安いといえば安いが)。

 私のこれまでの観察によると、Wizz Airのフライト料金は、①残りの席数②観光シーズンの度合い③目的地の人気度、といったあたりを「入力変数」としたプログラム(人工知能と呼ぶほどではないが、かなりのコストをかけて作りこまれたもの)により計算されている。そしてその知的財産は、Wizz Air秘蔵の虎の子として、頻繁かつ緻密にアップデートされていると推察される。

 英語圏にも同好の士はいるらしく、なかには「④その路線が何回検索されたか」も入力変数として勘案されている、との仮説を提示した人物もあった。すなわち、多くの人が関心を示すフライトは、値段を上げても購買意欲がさほど失われない(=フライトの価格弾力性が低い)というわけだ。なかなかにえげつない慧眼ではある。

 この真偽を確認するのは不可能に近いが(なにしろ私は取材に失敗したのだ)、仮にこれが本当であれば、興味のあるフライトはいたずらに検索しないほうが理に適う。あるいは、ひとたび発見したフライトは、すぐさま購入すべきとの結論に至る。いやいや、待て待て、むしろそうさせるのがWizz Airの策略ではないか・・・と、疑心がさらなる疑心を生んでいく。こうしたバッド・ループに嵌らぬよう、Wizz Airとの適切な距離を置くことも必要だろう。

 ともあれ、私の経験によれば、搭乗の2か月前までに航空券を買っておくのが無難である。フライト料金は小刻みに変動するが、全体的には日が迫るほど高額になる傾向があるからだ。そして人間は得したときのハッピーよりも損したときのアンハッピーのほうを大きく見積もりがちな生き物なので(行動経済学の生煮えの知識)、「航空券の購入手続きを終えたあとは、料金を調べる行為はきっぱりやめる」というのが、私の考えるベストプラクティスである。SkyScannerのアラート機能も、にこやかに停止させるのだ。




まとめ

ここまで述べた6つのTipsを再掲したい。あなたがWizz Airを利用するとき、ささやかなリファレンスのひとつとして捉えていただければ幸いだ。

  1.  機内の飲み物を準備しておく
  2.  荷物が多いときはWizz Priorityに頼る
  3.  Wizz会員になるのも悪くない
  4.  チケットは画像で保存するとよい
  5.  搭乗時刻と遅延リスクには相関がある
  6.  価格変動のトレンドを理解しておく

 これで語り尽くしたものだろうか。私はすべてを示せただろうか。
 いや、沈黙にはまだ温度がある。Wizz Airの気配はなくならない。


Wizz AIr
「もっと書けるだろう?」

「お前の力は、こんなものではないはずだ」


 そうだ、私には依然として語るべきことがある。それは、


出所:OPTO "Why EasyJet, Ryanair and Wizz Air’s share prices are flying high?" (Feb 2020)


欧州LCCの3番手であるはずのWizz Airが見せる財務諸表の絶好調ぶりや、


出所:Plainsspotters.net "Wizz Air Fleet Details and History" (Jan 16, 2020)


運用機体のほぼすべてをオペレーティング・リースで調達する財務(税務)戦略の巧みさや、


出所:Wizz Air Holdings "Plc Annual report and accounts 2019" p.4


 そうした好況にあっても右肩上がりの経営がいつまで続くかは保証されないという(i.e. 油価高騰、自然災害、機材不良等のイベントリスクをほぼすべて直接被らなくてはならないという)エアライン・ビジネスの構造的な過酷さをーーそれゆえに本記事で述べた内容の賞味期限もせいぜいが1-2年程度であろうことをーーA320向けV2500ターボファンエンジンの十数トンの推力を凌駕する勢いで、その仔細を語らなければならないのだ。




 だが私は、あえてここで本稿を終えることとしたい。

 なぜか。

 それは、「Wizz Airについて語るべきことはまだまだ尽きない」というのが、読者諸賢への最大のメッセージであるからだ。

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