コロナ逡巡日記⑪ (5月4日~5月10日):職場が再開予定となる

(本稿は、コロナ逡巡日記⑩の続きです)




5月4日(月)

 4日(月)15時現在,新たにオーストリア国内で24名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び2名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,551名(内死亡数:600名,治癒数:13,316名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月4日」


 5月15日から職場への立ち入りが許可される(ただし人数制限あり)との報を受ける。最近は新型コロナの感染者数も減ってきたので、いよいよ日常が戻ってくる感がある。

 ただし、ビル内には感染予防策が講じられるようだ。いま特別に出勤を許されているTさんによれば、「廊下は右側通行」「細い通路は一方通行」などの新ルールが整備されるとの由。なんだか自動車学校の教習コースのようである。




5月5日(火)

 5日(火)15時現在,新たにオーストリア国内で28名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び6名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,579名(内死亡数:606名,治癒数:13,462名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月5日」


 4歳児を幼稚園に通わせ(今月から通わせる判断をした)、6歳児には日々の宿題を与える。家のなかが少しだけ静かになる。

 子どもたちが騒がしいと落ち着かなくて困るが、ふと静けさが訪れてみると、これはこれで妙に落ち着かない。そういう「落ち着かなさ」も、十年後くらいには懐かしく思い出されるのだろうか。




 夜になってYouTubeで六代目神田伯山の「中村仲蔵」を観る。同年代で才能ほとばしる人が現れているな、と思う。私は大学時代に落語研究会の会長だったので、特にそう思う。

 「中村仲蔵」は、いま聞くとしみじみ良い噺だ。芸を披露する者にとって、理解者の存在がいかに大切であるかを教えてくれる噺だ。

 懐の深い読者に恵まれたおかげで、私もこうして文章を書き続けることができているのだ。




5月6日(水)

 6日(水)15時現在,新たにオーストリア国内で54名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び2名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,633名(内死亡数:608名,治癒数:13,639名))。

(中略)

 6日,ザルツブルク空港が5週間振りに再開されました。現在のところユーロウィング航空がデュッセルドルフ便を週4便で運航予定とのことです。最新の運航スケジュールについては同社ホームページにてご確認ください。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月6日」


 去年のサウジアラビア出張のとき、キング・ハーリド国際空港からリヤドのホテルまで運転してくれたスリランカ人から、コロナ収束後に彼のお兄さんが日本の就労ビザを取得するにはどうすればよいか、という相談を受ける。

 ほんの30分くらいしか人生を共有していない者からの、突然の依頼。まあ無視したって構わないのだろうけれど、どうも私はこういう話に返事をしてしまう。好奇心と親切心のハーフ&ハーフである。

 「Satoruさんの家にセイロン茶を贈らせてください」と申し出がある。
 「ありがとう。でもコロンボで買ったお茶がまだあるんだ」と応える。





5月7日(木)

 7日(木)15時現在,新たにオーストリア国内で32名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び1名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,665名(内死亡数:609名,治癒数:13,698名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月7日」


 近所のBILLAに買い出しに行く。ほうれん草、アボカド、バナナ、りんご、豚肉、食パン、たまご、牛乳、ポップコーン、クッキー、生クリーム、炭酸水、サラミ、白ワイン、等々。

 帰り道、妙なものが路上に落ちていた。




 額縁である。

 富山県商工会連合会から贈呈されたとおぼしき、額縁である。

 この額縁は、はたしてどのような経緯をたどって、ウィーンの石畳の上に、いま打ち捨てられてしまっているのか。そこにはどのような人物が関わっていたのか。どのような感情の動きがあったのか。

 何もわからないまま、家に帰って昼寝をする。
 わからないときは昼寝をするのがいちばんだ。


お花屋さんもオープンしていた


5月8日(金)

 8日(金)15時現在,新たにオーストリア国内で49名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び5名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,714名(内死亡数:614名,治癒数:13,836名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月8日」


 散歩をすると、近所のバーでビールの量り売りをやっている。来週から飲食店の再開だが、この頃になるとテイクアウトもさかんにやっている。ウィーン名物のアイス屋さんもケバブ屋さんも、オープンしている店が目立つ。自粛の縛りがほどけてきている。

 規制緩和の前祝いに、我が家でもOreno Ramen(俺のラーメン)のテイクアウトを頼む。




 自粛開けを記念したポーカー大会の期日が迫っているので、音響担当としてAmazon Music Unlimitedでのプレイリスト制作にいそしむ。我が好敵手たちとは10時間くらい戦い続ける予定なので、10時間ぶんの楽曲を用意する必要がある。

 アート・ブレイキージョー・ジョーンズ、そこからドラムつながりでママディ・ケイタ。さらにアフリカの流れでベナン共和国などのディープな民族音楽を次々に再生し、プレイヤーの判断能力に揺さぶりをかけてやろう(後日、この作戦は大いに成功をみた)。

 同時代の邦楽もしっかり入れよう。中村佳穂大橋トリオthe chef cooks me吉田一郎不可触世界Diggy-MO’。恥ずかしげもなく、自分の好みを押し出していこう。

 夜が更けてきたら、孤独な心に染み入るピアノの楽曲を増やしていこう。レジーナ・スペクターアルファ・ミストマンマル・ハンズ、それからグレン・グールドが弾いたシューマンのピアノ・カルテットをかけるのはどうだろう。

 気分はもう高校生。MD(ミニディスク)のオリジナル編集に入れ込んだ、あの赤面の日々がよみがえる。10時間のプレイリストができあがった。


2週間後の戦いの日、私はストレートフラッシュに敗北した


5月9日(土)

 9日(土)15時現在,新たにオーストリア国内で42名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び1名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,756名(内死亡数:615名,治癒数:13,928名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月9日」


 ふとしたきっかけがあって、デイリーポータルZのライターであられるこーだいさん拙攻さん、それから編集部の石川さんとZoomで飲み会をする。

 それぞれにバックグラウンドは異なるけれど、海外旅行、民俗学、生物学といった関心領域が重なり合っているので、予想どおりに話が盛り上がる。

 たとえば、こーだいさんは剥製をつくるスキルをお持ちなので、ブードゥー教の呪物の写真をお見せして、動物の亡骸にどのような処置が施されているのかを鑑定してもらったりした(ほとんど自然放置に近い状態とのことだった)。

 また、私がパプアニューギニアの原住民の風習に惹きつけられている旨を漏らすと、「舟の上でヤシの実の楽器を鳴らし、近づいてきたサメを撲殺する漁法」について教えてもらった。そのあとで共有されたYouTubeの映像は、それは強烈なものだった。

 私はつねづね思うのだが、人生における成功とは、学歴でもなく、年収でもなく、財産目録でもなく、社会的地位でもなく、こういうおもしろい人たちと時間を共有する機会をどれだけ得られるか、ということにほかならないのではないか。


 


5月10日(日)

 10日(日)15時現在,新たにオーストリア国内で30名の新型コロナウイルス(COVID-19)感染の確定症例及び3名の死亡事例が報告されました(累計確定症例数は15,786名(内死亡数:618名,治癒数:13,991名))。

引用:在オーストリア日本大使館「新型コロナウィルス関連情報:5月10日」


 子どもたちは相変わらず室内遊びばかりしている。

 彼らのご贔屓は、くもんの世界地図パズル。これまで節操なく旅行に連れまわしてきたのが功を奏したのか、このところ6歳児も4歳児も地理への関心が著しい。




 4歳児はまず北米大陸を完成させ、いまはアジアの残り半分に取り組んでいる。

 6歳児はもはや最難関のアフリカ大陸をクリアして、いまは超大陸パンゲアを彷彿とさせる集合体を世に生じせしめようとしている。おそらくそれは、くもん出版の想定を超えたプレイスタイルだ。

 ちなみに、4歳児が好きな国は、ロシア中国北朝鮮
 6歳児の好きな国は、アメリカ日本、とのことである。


「パパ、パラグアイアイスランドは形が似ているね」と息子が言う。その発想はなかった


「パパ、マリの形は便器に似ているね」と息子が言う。私は西欧の植民地政策の話をした


コメント

古今亭 さんのコメント…
ブログの更新、いつも楽しみにしています。
そろそろ肉声ブログもまた聴きたいですな笑

中村仲蔵、落語の淀五郎にも出てきましたね

神田伯山なら三代目がようがすよ。
六代目一龍斎貞山や、二代目神田勝鯉、六代目小金井芦洲

浪花節なら虎造、木村重松、東武蔵、京山幸枝若なんかがいいですな。

私もamazon music使ってますが、今入っているのは
ボブディランのブートレグと、三上寛、頭脳警察、友部正人、浅川マキ、高田渡、辺りですかね
次回の大会のBGMに…笑


サルトルマルクス並べても、明日の天気はわからねぇ
三上寛




お元気で
Satoru さんの投稿…
古今亭さん、ご無沙汰しております。 星ドラには最近限界を感じて半ば引退してしまいました(星神錬金の粉が全然ドロップしないところで挫けました)。すみません。

講談や浪花節は未知のエリアなので、これから少しずつ開拓するたのしみが待っています。三代目神田伯山、チェックしてみます。

三上寛、懐かしいです。寺山かぶれでJ・A・シーザーに傾倒していた旧友がよく愛聴していました。私のAmazon Music Limitedには90GB相当の音楽をダウンロードしてますが、桂歌丸の落語なども入ってます。こういうのを聴きながら白ワインを傾けるのもオツなものです。

それでは、また…!