ドイツ鉄道のオンラインチケットが届かない

このブログは「ウィーン滞在記」と「子連れ旅行記」のハイブリッドのようなものである。これは最初の投稿で宣言したとおりで、実際にそうしたことを半年ほど書き連ねてきた。

 しかし、最近になって、「海外生活における失敗のケーススタディ」ともいうべき側面が前景化されてきたな、という実感がすごくある。滞在記と旅行記のそれぞれの領域に重なる部分として、私の失敗記という新ジャンルが形成されつつあるのだ。

 まあ、それはそれで問題はない。一般論として、他人の成功話よりも失敗話の方がおもしろい。そしてときには役に立つ。私はそれでオール・オーケーである。

 今回は、ドイツ鉄道のオンラインチケットが届かなかった話である。



失敗の背景

すっかり日の長くなった5月の週末、私はドイツ鉄道のウェブサイトで、リンツへの往復チケットを購入した。

 ウィーンからリンツへは約1時間半の国内移動。それならばオーストリア鉄道(ÖBB)の乗車券を買うのが自然なのだが、今回あえてドイツ鉄道を選んだのは、片道11時間のユトレヒト鉄道旅行で利用したコンパートメント(Kinderabteil)が忘れがたく魅力的だったからだ。

 あの廉価にして贅沢な個室体験。爾来、私にとっての「DB」とは、データ・ベースではなく、デヴィッド・ボウイでもなく、ドラゴン・ボールでもなく、日本政策投資銀行でもなく(あれはDBJだったか)、ドイツ鉄道、すなわちDeutsche Bahn不動の地位を占めるに至ったのだ。



失敗の原因

そんな「DB」のオンラインチケットが届かなかった理由。それは白昼の太陽のごとくはっきりしている。メールアドレスの登録を間違えたのである。

 私はうかつにも、職場のユーザー名に「@gmail.com」を付けたアドレスを入力してしまった。このような出来事の常として、過ちに気づくのは送信ボタンを押し終えたまさにその瞬間である。そうして深い湖に投げ入れられた小石のように、ウェブサイトから一切の反応がなくなった。

 困ったことに、そのメールアドレスは世界の誰かが実際に使っているものらしく、「エラーのため登録やり直し」といった好展開には至らない。のみならず、私のクレジット口座から80ユーロが鉄の意志で引き落とされている。これは実に不思議なことだが、他のあらゆる手続きが不具合になっても、クレジットカードの支払いプロセスだけは、どういうわけか100%成功するのだ。



失敗の教訓

どうすれば、このエラーを防ぎ得たか。

 メールアドレスをよく確認すればよかった。というのは、当たり前だなぜ試験に不合格だったか。よく勉強すればよかった。それはあまりに当たり前すぎて、かえって愚かさ(考えのなさ)が露呈してしまっている。

 私の最大の反省点は、前回のユトレヒト旅行でDBのアカウントを作成済みだったのに、そこから予約をしなかったことだ。「マイページ」にログインさえしていれば、プロセスはしっかり記録され、誤入力しても挽回する余地があったのだ。そうしなかったばかりに、私のチケットは虚無の世界に吸い込まれ、クレジットの引き落とし記録だけが残されることになったのだ。


虚無の世界
虚無の世界


失敗の結末

それから私は、DBのカスタマーサポートに何度も電話をして、何度もたらい回され、さらには20往復ほどメールのやり取りを重ねたが、ついに解決の兆しは見えなかった。三井住友VISAカードに電話をしても、「まずDB側に返金処理をさせてください」と合理的な回答。入力ミスをしたメールアドレス宛てにも、英語と日本語と中国語とドイツ語の文章でコンタクトを試みたけれど、何の返信も得られなかった。きっと迷惑メールと思われたのだろう。

 そこで私はどうしたか。

 そこで私は、予約した(はずの)特急ICEに、車内発券による二重払いを覚悟で乗車した。「ええい、ままよ」とは、まさにこういう状況のためにあるような言葉だろう。最悪の場合、不正乗車と見なされて巨額の罰金を支払わされるリスクすらある。

 検札がやってきて、コンパートメントのガラス扉を静かに開けた。その刹那に漲った緊張は、私の鉄道人生の全体を通したクライマックスのひとつであった。

 とはいえ、結果としては、この乗務員は私の状況を理解され、本来チケットとしては扱われないウェブサイトの予約完了画面と、クレジットカードの取引記録の印刷物だけで、有難くもご寛恕をいただいた。DBの検札はすこぶる厳格と聞いていたのだが、少なくともこの大兄は「太陽政策」の人なのであった。

 そういうわけで、私はいよいよドイツ鉄道のシンパになった。

 「DB」といえば、データ・バンクではなく、ダブル・ベースでもなく、ダイムラー・ベンツでもなく、横浜DeNAベイスターズなどではもちろんなく、なんといってもDeutsche Bahn、ドイッチュ・バーン、なのである。


ドイツ鉄道のミニカー
食堂車のおじさんから、DB車両のおもちゃをもらった

 

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