子連れ旅行のライフハック

 子連れ旅行には苦労が多い、ということを以前の記事に書いた。

 今回は、そうした苦労を少しでも減らすためのライフハック(生産性を高めるための工夫、コツ、テクニックのようなもの)について記してみたい。

 これらはすべて私の個人的経験に基づく主観であり、その効果を完全に保証するものではありません・・・という免責事項を前提として。


ウィーン市内

【子連れ旅行のライフハック】 1. 準備段階

仲介サイトを使わない選択肢も考慮する

 ホテルやフライトを予約するとき、ExpediaやBooking.comなどの仲介サイトを利用する人は多いだろう。私もよく使う(Expediaは3年連続シルバー会員で、今年からゴールド会員)。ポイントも貯まるし、会員専用割引もあるし、なんとなく得をする印象がある。

 けれども、そうしたサイトを介さずに、直接予約を入れた方が安くなるケースもある。航空券の場合は特に顕著で、航空会社の直営サイトでは(Expediaに比べて)半額以下の値段で買えることもあった。キャンセルや日程変更などの融通が利きやすいのもメリットだ。

 後述するように、私はアパートメントホテルの愛好者なのだが、宿主から「次回はExpediaを使わずに直接予約してくれたら、もっと値引くよ」と示唆されたこともある。

 私はここで、仲介サイトの便利さを否定したいわけではない。Expediaの利用も続けるつもりだ(特に熱心なファンというわけではないが、一度「キャンセル不可」の予約を無理言ってキャンセルしてもらったことがあり、恩義を感じている)。でもホテルやフライトの目星をつけた後に、もうひと手間かけて元のサイトを見るのも罪はない。

レストランのレビューサイトに頼り過ぎない

 旅行先のレストランを探すのはたのしい作業だ。YelpやTripAdvisorで高評価のお店に、どんどんチェックを入れていく。そのうち1日10食くらいしないと足りなくなって、人間の胃袋の有限性に思いを馳せることになる。

 こうしたサイトのレビュー点数を鵜呑みにするのは、しかし大いなる過ちのはじまりである。その理由は、私の思うところ、各個人がレストランに求める価値に関する分散値の高さ(=多種多様さ)にある。そして欧米人のレビュー点数は、日本人に比べるとかなり甘い(まあ日本人が厳しすぎるのかもしれないけど)。「★4.2とあったのに行ってみたらひどかった!」みたいな悲劇は、このようにしてしばしば起こる。

 だから、よほどの理由がない限り、事前にお店を決め打ちするのはよくない。むしろ、現地で目に入ったレストランを「地元っぽい客で賑わっているか」「幼児同伴でも受け入れられそうな雰囲気か」といった見地から判断する方が、そもそもアドリブ要素の高い子連れ旅行には適している、というのが私の考えである。

移動手段ではレビューサイトを参照する

 他方、フライトやレンタカーを選ぶに際しては、むしろ事前にレビューサイトを参照するべきである。というのは、こうした移動手段に関するレビューには、はっきりと酷い目にあった人のカラフルな体験談がしばしばあるからだ。

 これを言い換えると、「★1.4の航空会社のレビューには、★4.2のレストランよりも、有用な示唆が含まれている可能性が高い」ということになる。

 ここで私の失敗談をひとつ披露したい。フエルテベントゥラ島でレンタカーを利用したときのことだ。このとき私は、特に名は秘すがRentalcars.comという仲介サイトを使って、これも名は秘すがHertzという会社で車を借りた。すると、当初の見積もり額は200ユーロ程度だったのに、後日クレジットカードの明細を見ると両方の会社から合計400ユーロの請求があった。つまり二重請求というやつである。

 もちろん私は丁重に抗議して(感情的にならずに、エビデンスに基づく要求を簡潔に伝えるのが私的クレームのコツ)、最終的に自動車保険のダブり分を返金してもらった。私の主張に真摯に対応されたRentalcars.comのカスタマーサービス担当者には、大いに感謝している。

 とはいえ、返金分を差し引いても当初の見積り額よりも高くついたのは事実だし、二重請求に気づかない顧客が(あるいはクレームを諦めてしまう顧客が)明らかな損失を蒙るこの会社のシステムは、控えめに表現して、かなりアンフェアであると思う。

 しかし、こうしたことは、事前にレビューサイトで参照しておけば、同様の被害に遭った人々が世界各地にいると知れたのである。車の借り先にしても、HertzよりもCicar(カナリア諸島のレンタカー会社)の方がずっと評判が高いということも。

 私は愚かにも事前調査を怠ったので、フエルテベントゥラ空港の窓口に並ぶ人の列がCicarだけ長いのにHertzはほとんど誰も並んでいない状況を見て、遅まきながら「これはなにかヤバイ」と気づいたのであった。

 というわけで、移動手段を選ぶ際には、ネガチェック的な意味合いを兼ねてレビューサイトをご覧になられるとよいと思う。私のおすすめは、世界中のあらゆるフライトの座席の詳細データを調べられるSeatGuruというサイト。このマニアックな集合知は、まさにインターネットの本領発揮という気がする。

オフラインで使えるGoogleマップをダウンロードしておく

 未踏の地を訪れるとき、ネット接続の可否は気になるところだ。最近は多くの空港で無料WiFiが使えるので、とても助かる。といっても、無料の(かつ信頼できる)オンライン環境が常に整うとは限らない。

 そういうときに活躍するのが、Googleマップの「オフライン機能」である。これで現地周辺の地図情報をあらかじめダウンロードしておくだけで、旅先で路頭に迷うリスクはぐっと減る。スマホやiPadはオフライン時にもしばしばGPS情報を自動的に拾ってくれるので、便利さはひとしおだ。

 私は最近はひたすらこれに頼っていて、もはや旅行中にSIMカードやポケットWiFiを調達することはほとんどなくなった。いや、あるに越したことはないけれど(セキュリティ的にも)、空港とホテルのWiFi環境で大体なんとかなるものである。

検索ワード入力の「三本線」のアイコンから「オフラインマップ」を選択


【子連れ旅行のライフハック】 2.移動時

荷物はなるべく機内に持ち込む

 子連れ旅行の荷物は、とにかくかさばるものである。着替え、おむつ、哺乳びん、子ども用の食器、等々。また、幼児にはどういうわけか「このパジャマじゃないと嫌だ」とか「このクッキーじゃないと食べない」といった不条理なこだわりがあって、そのこだわりが持ち物を際限なく増やしてゆく。

 しかしそれでもなお、我が家では原則として預け入れ荷物(Check-in Baggage)を作らず、ベビーカーを除くすべての荷物を機内持ち込み(Carry-on Baggage)でやりくりするようにしている。これは私が仕事で培った習慣――荷物紛失(Lost Baggage)のリスクを避けるとともに、荷物受取所(Baggage Claim)で同行者を待たせない配慮――によるものだ。

 それでは、子どもの荷物が増える分をどうしているか? 答えは簡単で、私の荷物を極限まで減らすのである。替えの下着が1セットあれば、ホテルで洗濯して着回せる。それで私は何の問題もない。

 そういえば、私の知り合いの商社マンは、小ぶりな布製エコバッグとジャケットだけで東京からシンガポールに出張していた。ここまでくるともう究極である。いま考えると、布製エコバッグで相手の企業を訪問するのはちょっと失礼なんじゃないか、という気もするけど。

ベビーカーの受け取り場所を明示的に確認する

 上に述べたように、ベビーカー(Baby Stroller)は機内に持ち込むことができない。スーツケースの大きさに折り畳み可能なベビーカーを誰か発明してくれないかな、と個人的には思うけれど、まあ無いものは仕方がない(※)。搭乗ゲートまでベビーカーを持参して、乗り込む直前に客室乗務員の方に預かっていただく、というのが我々のパターンである。

 いまのところ、これでベビーカーを紛失したことはない。「預け入れ=荷物紛失」という人間不信の方程式が頭の中にセットされている私には、まことに幸運なことである。

 ただ、ここで留意するべきは、着陸して飛行機から降りるときに、どこでベビーカーを受け取れるのかを客室乗務員に確認しておくことだ。というのは、①搭乗橋(Boarding Bridge)の中で渡されるケース、②荷物受取所(Baggage Claim)のベルトコンベアで運ばれてくるケース(サーフボードなどを扱う大型荷物専用ラインに届くこともある)の2種類があるからだ。

 些細なことかもしれないが、わずかな確認の手間で受取ミスのリスクを減らせるのだから、(少なくとも私にとっては)これは結構大事なポイントである。

(※) この記事を読んだ人から指摘されてはじめて知ったのだが、機内持ち込み可能な折りたたみ式ベビーカーは実在した(Pockit Lightweight Stroller)。アメリカのAmazon.comでもドイツ/オーストリアのAmazon.deでも、値段は200ドル(ユーロ)未満。レビュー点数も総じて高いようだ(品質に難ありとのコメントもあったけど)。これは真剣に購入を検討したい。
【2018年3月10日追記】

そして購入した。
【2018年7月6日追記】

できるだけ前列の席を確保する

 「飛行機の中で子どもにしてほしいことランキング」がもしあるとしたら、その第1位は、たぶん第2位を大きく突き放して「睡眠」だろう。子どもたちがフライト中にずっと寝ていてくれたら、こんなに楽なことはない。

 我が家も、空港内にある子ども向けの遊び場で思いきり遊ばせ、くたくたに疲れさせて機内での眠りを誘うようにしている。でも効果はあまりない。というのも、私の子どもたちは飛行機に乗るだけで「興奮のギア」の目盛りが2段階くらい上がって、眠気が一気に吹き飛んでしまうからだ。

 なので、子どもたちが機内で熟睡するという幻想は早々に捨てる。「子どもたちがフライト中にずっと寝ていてくれたら」というのは、英語でいう仮定法の世界なのだと心得る。彼らの覚醒を前提として、数時間のフライトを「どう凌ぐか」というのが我々の戦略の要点となる。

 その意味で、前列のシートを確保しておけば何かと都合がいい(もちろんエコノミー席の話)。私の思うところ、主なメリットは以下の3点だ。

(1)  ほかの子連れの「同志」が近くにいる可能性が高い
  持つべきものは仲間である。子連れの「同志」が近くにいれば、精神的にも実際的にも助けになる。ときには、子ども同士でじゃれ合い(ビジネス用語っぽく言うと、インタラクティブなコミュニケーション)がはじまって、お互いの退屈がうまく紛れるケースもある。
 航空会社によっては、座席を選ぶときに他の幼児連れの予約席が表示される。これも参考にする価値がある。

(2)  トイレに行きやすく、散歩もしやすい
  子どもは、長い間じっとしていることに慣れていない。というか、ほとんど不可能である。そういうときは、細切れに気を紛らわせるアクティビティとして、通路からトイレや厨房に通じる、あの少しだけ広くなる空間を軽く散歩させるようにしている。
 といっても、あまり通路の動線を塞いで他の人たちの迷惑になるのはよくない。この意味でも、すぐに広めの空間にアクセスできる前列が望ましい(この条件を満たすなら、中央部・最後部でも悪くない)。

(3)  食事などのサービスが早く得られる
  機内食の提供がはじまる気配を感じ取ると、子どもの精神安定性は著しい低下を見せる。身体を小刻みに前後に揺らし、「早く!」「飲みたい!」「アップル!」「ジュース!」と叫びだす。欲望がむき出しになって、人間と動物の境界線が曖昧になる。親にとっては試練の時間である。
 こういうとき、前方の席に座っていると、早めにサーブしてもらえるのでありがたい(ビジネス用語っぽく言うと、適切なポジショニングによるリードタイムの短縮)。当たり前と言えばそれまでだが、「欲望むき出し系」の子どもを持つ親には無視できない効用である。

 ちなみに、前が壁になっている席(バルクヘッド席)を確保できたときには、バシネット(乳児向けの取付型ベッド)を頼むという選択肢もある。当然ながら事前予約は必須だし、赤ちゃんがうまく寝てくれるとは限らないけど――うちの子は一度として寝てくれなかったけど――あの座席空間の活用可能性が広がる喜びは、他では得がたいものがある。

 私はかつて、バシネットを製造する某メーカーを訪ねたことがある。バシネットは1機体につき1,2個程度しか搭載されないので、業界的にはかなりニッチなマーケットである。でもカナダの田舎にあるその中小企業は、「ニッチにこそ活路あり」と、一生懸命バシネットを作っていた。世界中の旅する赤ちゃんの安全(と親の精神的平和)を守る仕事というのは素敵だな、と思った記憶がある。

小さくて長続きするおもちゃを持ち込む

 子どもを集中させる(静かにさせる)おもちゃは、言うまでもなく機内の最重要アイテムだ。望ましいのは、かさばらず、それでいて子どもの関心が持続するもの。このあたりは完全に嗜好の世界ではあるけれど、私の経験に照らして最も役に立ったおもちゃは以下の3つである。

(1) ミニカー
 厳選した2,3台。わが息子は、台湾で買ったごみ収集車と、ウィーンで買った路面電車と、ロンドンで買ったロンドンバスがお気に入りだ。こう書くとわけのわからない組み合わせだが、子どもはそこから自由に物語を創りだす。興奮がピークに達すると騒がしくなるのが欠点ではあるが。

(2) お絵かきセット
 アナログな紙と鉛筆でもよいし、書いては消せるホワイトボードでもよい。4歳の息子はいま迷路づくりにハマっているので、じっくりと大作に取り組んでもらう。よく見るとスタートからゴールにどうやっても辿り着けないが、そんなのは些細なことである。

(3) ブロック
 積み木だと持ち重りするので、我が家では可動式のブロック(写真下)を重宝している。各パーツがゴムで繋がっていて変形も自在なやつ。これはバークレーに暮らしていた折に買ったものだが、息子はいまでも飽きずに遊んでいる。
 
4年前、米国バークレーの4th Streetで買ったブロック


 スマホやタブレットを子どもに触らせることについては賛否両論あると思うが、我が家ではiPadをフル活用している。理想が実利に負けた形だ。

 でも実際、機内では幼児向けの無料アプリが無双の働きを見せる(ほとんどはオフラインでも遊べる)。誰かの参考になるかもしれないので、私の息子が愛好しているアプリを以下に列挙したい。玉石混淆なれど、なかなかに奥深い世界ではある。

・ エレベーター (エレベーターのボタンを押すだけのゲーム)
・ 自動販売機 (自動販売機のボタンを押すだけのゲーム)
・ おすしやさん (動物におすしを振る舞うゲーム)
・ ピタゴラン (ピタゴラスイッチっぽい仕掛けを作るゲーム)
・ タッチフード (平野レミが出てくる食育ゲーム。完成度が高い)
・ ワークワーク (いろんな職業を体験できるゲーム。よくできている)
・ Marco Polo Weather (天気を自由に操れるゲーム。おもしろい)

「タッチ!あそベビー」より。お尻をタッチするとうんこが出てくる


【子連れ旅行のライフハック】 3.  旅行先(ホテル、観光場所など)

アパートメントホテルという選択肢を考慮に入れる

 我が家は最近、アパートメントホテルをよく使う。ウィーンに来てからも、ザルツブルク、ヴェネツィア、フエルテベントゥラ島の旅行で、それぞれこのタイプのホテルを利用した。
 
 アパートメントホテルとは、要するに家具つきアパートの短期貸しである。調理器具や食器も充実しているので、子連れ旅行の最大の難所ともいうべき食事の苦労を軽減できるのがありがたい。

 また、アパートメントホテルの料金は通常「1人あたり」ではなく「1日あたり」で決まるので、子連れ旅行には抜群のコストパフォーマンスである。

 もちろん、我々を日常から解放するリゾートホテルも捨てがたい。でも、バーチャルな新生活感というべきか、引っ越しが終わって「さあこれから生活を立ち上げよう」というときの、あの独特の高揚感を味わえるアパートメントホテルに、個人的にはたまらなく惹きつけられるのである。

スーパーマーケットの場所をあらかじめ確認しておく

 ホテル選びに迷ったとき、私が判断の拠りどころとするのは「スーパーマーケットが徒歩圏内にあるか」というものだ。これは、戦争でいうところの兵站の確保である。スーパーの所在地だけ押さえていれば、あとは現地でどうにでもなる、というのが私の(雑な)持論である。

 忘れ物をしてしまったときにも、スーパーは便利だ。ヴェネツィア旅行のとき、私はうかつにも下着の替えを忘れたが(本当にうかつだ)、最寄りのスーパーにイタリア製の手触りのよいパンツがあり、勢いにまかせて5枚ほど購入した。1枚5ユーロ。爾後、このパンツを履くたびに、「ああ、ヴェネツィアはよかったな」と思い出している。

 ちょっとしたおみやげを買ったり、最終日に空港で食べるものを仕入れるにもスーパーは最適だ。もう空港の売店でやたら高いスナックを買う必要はない。確認しておくべきは、スーパーの場所である。

1日に3つ以上の目的地を設定しない

 旅行でいちばんたのしいのは、もしかしたら計画をしているときかもしれない。ガイドブックを眺めて、あれこれ夢想にふける時間。想像の中では、人混みとか渋滞とか、紛失とか二重請求とか、そういうネガティブな要素はあまり出てこない。

 でもご存知のように、現実の旅行は――特に子連れ旅行は――それほど美しいものではない。フライトは遅れるし、うんこは漏れる。トラブルの直後に、別のトラブルが訪れる。「予定どおりにいかないことが常態」と心得るマインドセットは、何にも増して子連れの旅の必需品である。

 これまでの経験から私が得た教訓は、「1日の目的地は1カ所を基本とする」というものだ。多くても2カ所。それ以上となると、まず間違いなく破たんする。スケジュールは崩壊し、怒号が飛び交い、うんこが漏れて、悲惨なことになる(個人の感想です)。

 目的地の数は、だから少ない方がいい。それどころか、目的地をひとつも設けない日があっても悪くない。ホテルの近くを、子どもたちと手をつないで、ただ無為にぶらぶらするだけの日があったっていい。ガイドブックの写真の場所を確かめるだけが旅行じゃないと、私は思うのだ。

オーストリアの田舎町・パイエルバッハ
オーストリアの田舎町・パイエルバッハ(Payerbach)にて

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