ウィーンで施しを受ける息子たち

 国際機関に勤務していると、それぞれの国の「国民性」がよく話題になる。「今日の天気」よりは少しだけ踏み込んだ、いささかの毒を含んだ雑談トピックとして。たとえば、「日本人はすぐにお辞儀をする」とか、「時間厳守の文化なのになぜか残業ばかりしている」とか。

 そうした文脈で、オーストリア人の国民性について云々されることもある。どういうわけかひどいものが多い。「路上で喫煙する」「犬のウンコを放置する」「人前で平然といちゃついている」「トイレの後で手を洗わない」といった按配だ。最後のはちょっと検証が難しいけど(あまり検証したくもないけど)、他の指摘事項については、まだ半年しか住んでいない私の目から見ても、残念ながらそう外れていないように思える。

 言うまでもなく、日本人にもアメリカ人にもバングラデシュ人にも、路上喫煙者はいるし、犬のウンコ放置者はいるし、公然いちゃつきカップルはいる。こういうのはあくまでノン・パブリックの場でのみ通用する、品のないエスニック・ジョークの類ではある。


ある雪の日のウィーン市街の風景


 でもその上で、私がオーストリア人の国民性の善なる面を指摘するなら、「子どもに対して無償に発揮される親切心」は、その筆頭に挙げたい項目である。

 こちらの人々は、私の息子たちを本当によく可愛がってくれる。散歩していると、見知らぬ人からsüß!(可愛い)やSchön!(美しい)などと感極まった調子で叫ばれたり、すれ違いざまにいきなり頭を撫でられたりする。いまの日本でそれをやると「事案が発生」となりそうだが、ウィーンでは、ほとんど出かける度にそういうことがある。

 それから、電車やバスなどに乗っていると、そこに居合わせた人から、グミやチョコレートなどをよくもらう。「知らない人からモノをもらってはいけない」というのは日本では普通のしつけだと思うが、ウィーンでそれを守るのは難しいようだ。

 たとえば、オーストリアの国民的お菓子のひとつに、マンナー(Manner)という名のウェハースがあるけれど、我々は地下鉄Neubaugasse駅のホームで通りすがりのお姉さんからおすそ分けしてもらって、そのおいしさをはじめて実感。爾来、すっかり我が家の常備品となってしまった。そういうケースが結構あるのだ。


ウィーンで人気のお菓子、マンナー(Manner)
もらってばかりでは申し訳ないので、我々もときどきお菓子をおすそ分けするようになった

ウィーン人気のお菓子「マンナー(Manner)」仕様の路面電車
クリスマスの季節には「マンナー仕様」の路面電車が走り、お菓子が配られる。すべて無料だ


 お店でモノをもらうこともある。Oberlaa(カフェ)ではマカロンを、BILLA(スーパー)では子豚のぬいぐるみを、家の向かいのケバブ屋さん(焼きウィンナー、焼きそば、焼きケバブは、ウィーンの三大「露店ジャンクフード」だ)ではピカチュウのフィギュアをいただいた。とにかくあちこちで、子どもたちへの賛辞の雨、愛情の嵐なのである。

 これは一体どういうことか。私の息子たちが世界一可愛いからだろうか。もちろん、そんなことはありえない。私にも分別というものがある。私の息子たちが世界一可愛いわけがない。客観的に言って、せいぜい日本一というところである。

 となると、これはやはり、人種を問わず子ども全般に対して発揮される親切心であり愛情表現、と考えるのが自然だろう。そういう意味では、ウィーンは子連れの滞在に優しい場所だと思う。犬のウンコと路上喫煙にさえ気をつければ、幼児を伴う旅行先として最高である・・・と、こう書くと「最高」のイメージからは若干距離が生まれるけれど。


ウィーンのケバブ屋でもらったピカチュウ

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